昨日は
「照明屋さんが早く来ないといって焦られると、実はちょっと困る」
と書いた。
でも、内心では、これとは反対の事を思っているのも事実。時間があれば、稽古を観にいって、演出や役者と話したいのも事実。何が見せたいのか、何が主張したいのか、それを個々人から根掘り葉掘り聞いて、ベストな照明の流れを作り、実際の演技・演出の出来を見て、その流れを修正し、演技・演出のレベルが上がれば、またそれを修正し。そういった入念な作業を繰り返す方が良いに決まってる。
ただ、こうした作業を行えるかどうかについて、照明家側としては、どうしてもギャランティの事を考えざるをえない。照明家に支払うギャランティについては・・・まあ、雇った照明家さんと話をしてもらえばよい事なのだ。しかし、プランを組む段取りを決める際に、一つだけ確実に言えることがある。
「拘束日数(仕込み日〜楽日)1日あたりのギャランティが3万円を切る場合、照明家は稽古にそれほど行けない」
これは、商業公演でない場合の一般的な法則だと思ってもらえればよいだろう。木曜日あたりから仕込み、日曜日にばらす。そうすると、ギャランティが12万円という事に成る。
ただ、大体の劇団はこれだけのギャランティを出せないとも思う。1日1万円になったり、それ以下をオファーされることもざらにある。
「1日1万円も稼げるんだもん、悪くない仕事じゃない? 仕込みは大変だけど、その後は2時間×2くらいしか仕事しないし。弁当も出るんだし」
と思う人も居るかもしれない。いや、演劇を長くやっている人でも、実際にそう思っている人が多いと思う。でも、それは大間違い。はっきり言えば、1日3万円のラインが、職業として照明家をやっていく最低ライン。これ以下では成立しない。
これ以下のギャランティでも、「はい、喜んでー」などと、どこかの居酒屋のように返事をして仕事を受ける人はいる。しかし、こういう人は、基本的には職業として照明家をやっているのではなく、趣味で照明家をしているのだと思ってもらえればよい。
どうしてか?
照明家が一本の舞台の照明を作って公演を終えるまでには、大体次のような経費がかかる。
1:交通費
稽古を見に行くには交通費がかかる。また小屋へ打ち合わせをしに行く時、本番中に小屋へ通うのにも交通費は必要だ。
2:機材代
機材を持ち込む場合には機材代がかかる。
また、機材を持ち込まなくても、照明に色をつけるための「ゼラ(ポリカラーやロスコ、リー、ウルトラなど。材質的には、もうとうの昔に「ゼラ」ではないので、カラーフィルターと呼んだ方が本当はよい。けど長いじゃん?「カラーフィルター」って)」や、現場で使う「ビニールテープ」「養生テープ」「油性マジック」「電池」などを購入しなくてはならない。「ゼラ」以下は消耗品であるため、経費は毎回確実に発生する。
少し照明を知っている人は「ゼラって何度でも使えるじゃん」と思うかもしれないが、そんな事は無い。意図どおりの色を出したいと思った場合、ポリカラーでは公演2回分(2演目分)くらいの使用が限界。芝居中ずっと使っている灯体に入れる色の場合、公演の途中で替えなくてはならない場合すらある。
3:通信費・コピー代・プリントアウト代
劇団や小屋とやり取りするためには、電話代などの通信費が発生する。メールがあれば費用は安く済むが、決してただというわけではない。仕込み図を書いた後には小屋にFAXしなくては成らないし、仕込み前には照明で来てくれる人に渡すコピーを取らなくてはならない。PCで仕込み図を作る場合はプリントアウトをする。これも決してタダではない。
4:人件費
仕込みに手伝いにきてくれる人を呼べば、人件費が必要だ。日本照明家協会が定める仕込みの人件費は、実は1日1人あたり1万5000円となっている。意外に高いでしょ? 小劇場の場合、そんなに払っている事はまずない。が、やはり最低ラインとして5000円は払いたい。
だいたいこんなところかな。これに、
5:生活費
照明家も人間なので、生活を維持していくだけのお金が必要になる。活動費として考えてもらえればよい。「馬鹿にするな」とは言わないで欲しい。照明家はプランを組む能力と、照明機材を扱う専門能力とで雇われている。つまり、自分自身が商品なのだ。それを一定レベル以上に保つためにも、十分な生活費は必要となる。
さて、これらを足すと、一体どうなるのか。
都内によくある、キャパシティ100人前後の小屋(タイニィやMOMO、本多のOFFOFF、「劇」小劇場などが古くからの有名どころ。他にもたくさんある)で考えよう。
1は、稽古場の場所などにも左右されるが、私の場合、1回あたり往復で1000円見ている。私鉄とJRとを組み合わせて稽古場に行かなければ成らない場合、それくらいは余裕でかかる。で、劇場に行くにも同じくらいの値段を見ておく。稽古に行く回数が多ければ、1万円は軽く飛んでしまう。
2は、持ち込む機材の量に左右される。機材持込を無しとした場合でも、ゼラ代が使用灯体数×100円くらい。「ビニールテープ」「養生テープ」「油性マジック」「電池」などで、計2000円といったところだ。灯体数が50灯だとして、7000円くらい。
3。それほど高くないように思われるかもしれないが、現在、携帯とメールはなくては成らないものになってきた。もちろん、普通の電話はいわずもがな。これを維持するお金が必要になる。どれだけ抑えても、月1万円くらいはかかる。月2回照明を行うとして、1公演あたり5000円は見ておかなくてはならない。コピーとプリントアウトは、各300円くらい使っている(経験則)。計算上面倒なのでざっくりと6000円としておこう。
4。人を呼ばなければかからない。しかし、ぶっちゃけた話、照明の仕込をスムーズに行いたい場合、どんな小さな小屋でも、プランナーを含め、照明のできる人間が3人は必要。ここから仕込みに2人呼ぶとして、1万円。
5。稽古が日曜日にしかなかったり、通しが土日にしかできないといった団体の場合、週末を潰さざるをえない。もちろん、その週には本番が入れられない事に成る。こういった団体の照明を行う場合、一番上手くいった場合でも2週間分の生活費は必要になる。通信費枠は別に取っているものの、現在の東京では月15万ないと生活維持は出来ないだろう。7万5000円。
足してみようか。
1万+7000+6000+1万+7万5000=10万8000円
はっきり言おう。「照明プラン+本番オペレート」一回につき、これくらいのギャランティが無い限り、照明家は生活を維持していけない。これでもかなり抑えた額になっている。実際には、一本当たり15万程度無いと、(舞台専門の職業照明家として)暮らしていく事は難しい。1日3万円のラインは至極まっとうな、しかもかなり良心的な値段設定だという事に成る。
さて。
もともとの話題は、「なぜ照明家が稽古に行けないのか」だった。ここまで照明家のコスト説明をすれば、理由を説明するのは非常に簡単。上記の1〜5までのうち、削れるのが1と4だけだからだ。2と3とは、その性質上削るのが困難(照明のプランニングや仕込みやオペレート作業に支障が生じる)。5は、そもそもこれを稼ぐために照明家をしているのだから、削るのは本末転倒だと言える。
交通費が5000円になって、人件費が0になれば、全体のコストは10万を切る。さらに、本末転倒では有るが、生活費をやりくりすれば、なんとか2週で5万円程度に成らない事もあるまい。8万円ライン。拘束一日当たり、2万円。ありがちな値段だ。
かくして、小劇場を中心として活動する照明家は、劇団に入っている劇団員のごとく、困窮した生活を送っている。(もしくは、テレビや各種展示会、カラオケ大会などの照明をして、別個に稼ぐ事になる)。
ある程度キャリアがある人だと、一回で20万や30万のギャランティを請求するフリーの照明家さんも居る。これを決して高いとは思わないで欲しい。はっきり言って、このレベルのギャランティを月に2回〜3回貰ったとしても、照明家の生活レベルは、同世代のサラリーマンに比べて、格段に低いです。
注:
これはあくまでもフリーの照明家の場合。照明会社やイベント会社に所属する照明家の場合、これの2倍かかるのを目処にすると良い。ちょっと高いね。その代わり「寄らば大樹の陰」と言った意味での安心感はある。
ただし、これは「滞りなく公演を終える」という意味での安心感。プランが良いものになる「安心感(というか信頼感か)」とは又別ね。有名な照明会社にいる照明家さんが良いプランを作るとは限らない。この理由は、その内別途書くことにする。
2004年02月18日
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『ここでしか生きられない人』をテーマにしています。
現在は個々の演出と融合点に対する打ち合わせが進んでいます、その中で主催者を始め出演者のほとんどが照明に関する演出の実現性に悩んでいる状況です。私個人と致しまして照明家の自覚をもつ人間はそれ自体がアーティストにちがいないと感じています。 テーマに沿った形で、依頼ではなく参加という方向で考えています。
今回のギャランティーのお話は非常に良くわかりました、その舞台で心のある関係や演出が交わればそれ以外のギャラもあるとさえ感じました。
現在照明家の方との交流の接点が無く、またその接点を手探りで求めています。
忙しい中と想いますがぜひアドバイスをお願い致します。 米内 重徳
いくらでやってくれるの?と聞かれるといつも躊躇してしまい、困っていましたが、こちらのブログとても参考になりました。
結構安く見られちゃう事にも疑問だったのでこのテーマはありがたいです。
私のギャラは、大半が趣味のレベルでした。